謄写版の冒険

和歌山県立近代美術館に行くのは多分2回目
今回の展覧会はなんとも興味深いものだった。
「ガリ版」を知っている人はもはやわずかだろう。
しかし「ガリ版」なることばはここに展示している方々は好まない呼び名だということに苦笑してしまった。
確かに「孔」を開けてそこにインクを染みこませて映すという、いわゆるシルクスクリーン的な方法なワケで、
ガリ版という技法は「下手くそ」なやりかただったそうだ。
minograph

気になったことが3つ


1.活版印刷より「簡易な印刷技法」。木版より「簡易な技法」であると思われるこの技法は何部くらい刷るのに適しているのだろうか?
  活版ならそれこそ1000部でも10000部でもすれるだろうし、木版でも原画があるので版を重ねることは比較的容易だ。
  この謄写版は「電子謄写機」が出来るまではそういった「複製製版」ができなかったハズで、
  なんとも中途半端な印刷だったのでは?と勝手に怖れてしまう。
2.ここで展示されたものの多くは「洋紙」であり「中性紙化処理」がなされていないようだった。
  残すための覚悟はできているのだろうか。そろそろやばそうである。
3.ここに展示された印刷物の価値はとても興味深いものがある。何部あるのかも気になる。
  版画としての作品にはX/Xという印刷部数と何番目かというのが記載されていた。
  美術的価値(批評)がなされていないいわゆる博物学的展示に終始しているところが興味深かった。

運良く、学芸員のギャラリートークに参加することができた。なんでも2年あまりでここまでまとめたとのこと。関係者へのインタビューと共に、作品の寄付などの経緯聴くとなんとも絶妙なタイミングだったようだ。この重要な文化財を末永く保存し、各地に巡回してもらいたいと思う。そして、是非版画としての価値評価も明確に世に提示して欲しい。私としては、この謄写版技術(文化)が当時の文化と、どのように関係していたのか、他メディアとの「協調関係」「競合関係」についても明らかにしてみたいと思った。

あと、ここで気になったのは、wikipediaにやっぱり記載があった。流石というか、なんというか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AC%84%E5%86%99%E7%89%88
謄写の鉄ペン技術
「ていねいに」「気合い」に尽きるというのがなんとも。
塗りつぶし・線の濃淡
「鉄ペン技術」に尽きるというのも「凹版」「凸版」などとの違いを特徴にするのか、対抗するのか、なかなか興味深い葛藤が見えた。
素材の紙とインク
「インク」はやはり奥深い。インク屋という仕事にはちょっと興味があるがなかなか手出しできない。
「紙」インクの吸いと乾燥と光沢・・・やはりここはコストと直接関わるだけに。
で、やっぱり刷り部数は気になる。版の重ね方も木版と違うわけで、これまた気になる。

図録がないのが残念と思っていたら、受付で希望者に(そっと)配布してくれていた。素晴らしい(ただ、掲載されている図版は必ずしも「これ」というものが掲載されていないのがなんとも口惜しい)。
どうやら「謄写版」印刷のような雰囲気があるが、それは気のせいなんだと思う。

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